オタク女子のすすきの恋活記VOL.2:新たな恋の予感…まさかの“恋活バー”デビュー!


すすきのオタク女子の恋活期2 前回のあらすじ

医療事務員のアスナには、納得のいかない出来事が起きたばかり。高校時代「いいな」と思っていた男性が、彼には興味がないと公言していたはずの同級生と結婚したのだ。愚痴を聞いて欲しいあまり、友人のチカをすすきのへ呼び出したアスナだが、チカにはまるで取り合ってもらえず「気持ちはわかるけど、アスナは他人のことを気にしすぎる」と心配される始末。図星をつかれたところで、チカの携帯に着信が。アスナは付近にいるチカの友人と3人で会うことになる。

 

「ミチルです。アスナさん、今日はよろしくお願いしまーす!」

結論からご報告しますと、あの日私たちのところへ合流してきたチカの友人は、2歳年下の女の子でした。

その日、現れたのが男の人じゃなくて親しみやすい雰囲気の女の子だったとき、私は正直安心しました。

よく考えたら恋愛はしたいけど、突然知らない男の人がやってきてもうまく話せる気はしないし。相手はチカの友達なのに、会話が続かなくて気まずい思いをさせたら申し訳ないし。でも、同性ならば努力だけで盛り上げられます。結果として、ミチルちゃんを交えた3人の会話は努力せずとも大盛り上がり。その場で私と彼女は次回会う約束をしました。 ミチルちゃんもアニメやアイドルが好きな人だったのが良かったです。

彼女が「凛」って名前のアイドルキャラクターのコスプレをしてるって話してくれたとき「それってμ’s? それともニュージェネとかの子? もしかしてダンシングディーヴァ?」と質問したのがきっかけで私たちは急速に打ち解け、今日に至ります。「凛」って名前のアイドルキャラクターが多いのはオタク間では知られていることですが、逆に言えばそれだけで相手に自分もオタクと伝えられる質問でもあります。

彼女が嬉しそうに「μ’sです!」って答えたとき、チカだけが話についていけずキョトンとしていたのが、ちょっと面白かったです。 そうして今、早速ふたりで会っています。金曜の夕方、札幌の待ち合わせ場所の定番、大通り駅改札近くの※ヒロシで待ち合わせをして、35番出口付近に固まってるオタクショップへ向かい、狸小路を経由してすすきのへ行く札幌のオタク定番コース。その後、ノルベサの数店を巡った後、私たちはある場所へ入りました。

※ヒロシ:札幌地下街ポールタウン入口に設置されている4面マルチビジョン、及びそのキャラクターの名称。黄色い色が特徴で、札幌市内の待ち合わせ場所として多くの人に知られている。(出典:wikipedia)

最近、すすきので話題の恋活バーというところへです。

すすきの恋活バー   話に聞いてお店の存在自体は知っていましたが、今日まで私のような人間は、まず足を踏み入れることはないと思っていました。ミチルちゃんは言います。自分はケチなので、こうった店を重宝しているのだと。なんと、このお店は女性は無料でお酒が飲めるのですが、その分男性は3,000円(金土日は4,000円)の料金を支払う制度になっています。 ひとりでは勇気を出しづらくありましたが、ミチルちゃんと一緒なら入れる気がしました。自分を変えるいい機会だとも思いました。だからお店に入ることができたんです。

でも、両手いっぱいにオタクな買い物袋を提げた自分たちがこの店に入るのはどうなのか。と思っていました。 そんな私にミチルちゃんはこう言いました。 「オタクグッズを持っているから入るんですよ。最初は隠しながら付き合えても、仲良くなった後も自分の趣味隠したままってしんどいじゃないですか。それなら、最初っからバレちゃってる方が、気がラクですよ?」 と。 その通りかも。と思いました。

なぜならば、私が現在進行形で片想い相手にオタクを隠していて心苦しい部分があるからです。彼に、自分の「推しメン」を知ってほしくて、一度彼の前でそれとなく広告を指さし「可愛いよね」と言ってみましたが、まるで知らない様子。その時は、やり場のない残念さに襲われたのを覚えています。 「それに、アスナさん自分の世界広げたいんですよね? あえてこの格好で行けば、オタクの友達ができるかもしれませんよ」 確かにそうかも。と思いました。

好きな人とうまく行く気がしないこと、会う友人も固定化してきて行動範囲が狭まっていることは、ミチルちゃんには前回既に話しています。彼女はおそらく、それを考慮した上でここを選んでくれています。ならば乗っていかなくてはと思うし、タダ酒ですし…。 そうして充分な言い訳を与えられた私は入店し、ふたりで話しているうち、男の人たちは比較的すぐに話しかけてくれました。ミチルちゃんは非常に華やかなルックスをしていたからです。

そして、ミチルちゃんの打ち解ける速さがすごい…。自己紹介しつつ、私のことも伝えてくれます。彼らは私たちの持ち物から下で買い物してきたのを察し、ミチルちゃんも明るく「オタ友なんです」って返したりして。 コスプレイヤー同士は同じ作品の違うキャラクターの格好で集合して、一緒に写真を撮ったりイベント会場で活動したりするから、コミュニケーション能力が重要だ。と言っていましたが、まさかこれほどとは…。

ミチルちゃんを介して、どんどん会話が広がっていきます。 どうやら男性たちはもともと高校の同級生らしく、久々に集まったのでノリでここに来店してみたそうです。男性5人に女性2人の会話は、ミチルちゃんのおかげで良いタイミングで私にバトンが渡ってきました。自分のアピールよりも私の紹介に徹してくれるミチルちゃんの気配りに感激しつつ、好みのタイプについて聞かれ、私は用意していた答えを述べます。

好みのタイプは…えっと…誰にでも優しくて、周囲に気遣いができる人です。

私は昔から、男女問わずそんな人が好きでした。例のグループ卒業した推しメンも、子どもっぽいようですごく周囲に気を配る人で、その人柄に惹かれて…。といきなり語ると事故るのはさすがにわかっているので、ぐっと飲みこみつつ「自分もそうなりたいと思ってて」と締めました。

すすきの恋活バー

そうしてしばらく会話していると、隅でひとりでいる女性に気がつきました。この店であえてひとりでいる彼女の意図はわかりません。もしかしたら店の主旨をまったく知らないまま来店したのかもしれないし、知っていて尚ひとりで飲みたいのかもしれません。でも、その割にはこっちをチラチラ見ている気がするし…ていうか、最初からひとりだったとは思えない感じにテーブル散らかってるし。

どうせこの場にいる男性はミチルちゃんがお目当てなんでしょう!と思ってましたが…

しばし悩んだ末、私は彼女に声をかけることに決めました。そうしたところで別に何かあるということもないでしょうし、ともすれば迷惑がられて追い払われるかもしれません。それでも性格上、こういったお店にひとりでいる彼女のことが気になってしまったんです。私はグループのうち2名に囲まれ、会話はそれなりに盛り上がってるけど、彼らは私よりミチルちゃんに関心があるのはなんとなく伝わってくる。せっかく男の人と話すチャンスを作ってくれたのに自分から逃して、ミチルちゃん本当にごめんなさい。

そう思いつつ、私が席を立とうとすると。反対側に座っていた、それまで人の話を聞くのに徹している雰囲気だった男性が、私と同時に立ち上がりました。 どうやら彼も、同じことを考えていたようです。「えーっと、あそこの…」私がそう言っただけで彼は頷き、気持ちはもう伝わっているようです。おそらく彼は、私に『彼女を呼んであげて』と言いたいのだと思います。 当然私は「はい!」と大きく返事をし、そのままテーブルから離れようとします。すると、なぜか彼に呼び止められました。

後から考えると、まるでわざとやっているかのような私の行動です。しかし、その時は彼が何を言いたいのか本当にわかりませんでした。それくらい緊張していたんだと思います。だってそれは…。この人って、さっき言った誰にでも優しくて、周囲に気遣いができる人だったりしないかなって思ってしまったからです。 少なくとも、私以外誰も気づいてないと思っていたあそこの彼女のことを、この人はわかっていたし。

「一緒に行こうよ。俺はマサトっていいます。あなたはアスナちゃんでいいんだよね?」

ああ、こんなきっかけで恋とか始まっちゃったら、あの子の出てたドラマみたいで素敵なのに…

でもそんなにはうまく行かないよね、多分…。 大きく「はい!」と答えたものの、さっきから「はい」しか言ってないような気もしてきます。これでは「話すときはまず「はい」と結論から」という居酒屋アルバイト時代の口調そのものです。

このまま私がオーダー伝えに厨房に消えても、なんら不自然じゃない。実はここの店員ですって言っても、マサトさん驚かなさそう。そう思いつつ、私は彼とともに立ち上がり、気になるあの席へと向かいました。

 

(眞宮悠里)


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