オタク女子のすすきの恋活期VOL.3:気になる人と昔からの片想い相手。今一緒にいたいのは?


恋パ新年会

前回までのあらすじ
チカの友人・ミチルと知り合い、意気投合したアスナ。ある日ノルベサで一緒に遊ぶことになった二人は、異性と相席できる「恋活バー」にチャレンジする。自分を変えるべく積極的に会話に参加するアスナだったが、隅にひとりでいる女性が気になり、思わず声をかけることに。すると、同じように彼女を心配していた男性が。彼の名前はマサト。それがきっかけで、アスナは彼のことが気になり始める。

マサトさんは、気さくで誰とでも仲良く話せるタイプの人でした。

あの日私は、恋活バーで、最終的にマサトさんという男性と、マイさんという女性と仲良くなりました。全員初めて会った同士の3人の会話だったのが良かったです。親切な雰囲気のマサトさんが気になりはしたものの、ふたりきりでは余計なことばかり話してしまいそうだったし、マイさんを会話の中心にすることで、皆気遣い合う感じで会話が進みました。私を除くふたりは音楽が好きで、よくライヴハウスに行くひとたちでした。なので話は音楽中心で、特にマサトさんは来週も出かけるほど好きなのだそうです。しかし私はバンド名や開催場所を言われても見当もつかず、ふたりに質問して話を膨らませるのが精いっぱい。それがかえって良かったのか会話は弾み、3人で連絡先を交換しあいその日は解散。

一週間、何度か両名とLINEでやりとりはしましたが「また3人で直接会いましょう」とは言えず、言われず。もちろんマサトさん個人にアタックもできず。早くも私はどうしたらいいかわからなくなっていました。ここは素直にミチルちゃんに相談すべきか。

『あのあとマサトさんと仲良くなれたけど、また3人で会いましょうって言ったら、かえっておかしいかな。でもいきなり2人でっていうのは勇気いるし…』って。

彼女は私がいかに恋愛経験値が低いか知っているし、よし、ここは…。とスマホを握ると、久々な人から連絡が来ていました。

スマホをいじるアスナ

片想い相手のヒロアキ君です。

「昼から二時間くらいなら時間がとれそうだから、一緒にご飯食べない?」

ここで「いいよ」と返信してしまうのが、私が馬鹿な理由です。よくないのに、新しい恋が見つかりそうなのに。もう脈がない人のところに、諦めきれず出かけてしまうんです。呼び出されたのは彼の通う北大の食堂でした。クラーク会館というところの食堂は、休日でも構内で公演や学会が行われているためか賑わっています。皆充実した表情を浮かべる中、私だけが暗い表情をしていたと思います。だって、学生食堂って。別に華やかなお店に行きたいわけでも、高価な食事がしたいわけでもありませんが、場所がよりによってあと1時間で閉まる学生食堂。

「久しぶり、元気だった?」そう言ってやってきたヒロアキ君を見た時、心に浮かぶのはもう嫌な言葉だけでした。もちろん、浮かんでも口にはしません。私は笑顔で「大丈夫!」と返事をし、彼の好きな私の失敗話とか、自虐的なネタで盛り上げます。だけど、食堂と言われた時点で、気分はとっくに真っ暗でした。不思議な話です。仲良くなったばかりの頃は、一緒に話せればどこでもよかったのに。寒い日の夜、公園のベンチでコーヒー一本でも楽しかったのに。でもそれは、この先彼とお付き合いできるかもしれないという期待があったからでしょう。今はもうそれはないから、こうして時間つぶしに付き合わされている事実に気づいて、落ち込むんです。

少し前の私は、彼と会うたび、いつもひそかに周囲を観察していました。あたりを見渡すと、会話が盛り上がってないカップルって結構います。明らかに片方が退屈そうだったり、お互いスマホをいじっていて、そもそも話をしていない人たちなんていくらでもいます。そんな人たちに比べ、自分たちは盛り上がっている。楽しそうにしていると、いつも内心自慢でした。でもそれは、私が彼に必死で合わせているから成り立っていたのです。同様に、彼の前に私よりもっと大切にするべき別の人が現れても、成り立たなくなるものなのです。

話の途中で、トレーを持った年配の男性がヒロアキ君に声をかけました。私には「学生?」と聞き、私が返事をする間もなくそのまま隣の席に座ります。ヒロアキ君は一瞬困ったような顔をしましたが、彼を追い払うことはせず、それどころか男性と何やら難しそうな会話を始めました。どうやら彼の研究室の教授のようです。私はせめてどこかで会話に参加するか、ご挨拶しようかと思いましたが、男性は私に一切興味がなく、ヒロアキ君との話に集中したいようです。仕方なく飲もうと持ったカップのスープが冷えていて、なんだか悲しくなりました。大学院に通っている別の友達が、前に「院生は、教授に媚びないと生きていけないから」と言っていましたが、私は今まさにその光景を目にしているんだと思います。とっくにわかっていたことです。

大学時代からずっと好きだった人が大切にしているのは、私ではなく自分自身の将来です。

私と話すよりも、この無理やり割り込んできたおじさんに媚びを売ることが大切なのです。そう思うと、なんだかすごい馬鹿馬鹿しくなってきました。せめてここで「帰るね」と言い出せればいいのです。でも実際の私がしていたことは、時間稼ぎにのろのろとご飯を食べ、退屈そうに何度も時計を見ることだけ。そのうち、とうとう食堂が閉まる時間になりました。「ごめんね」ヒロアキ君は、別れ際そう言いました。口では謝ってくれるし、いつも時間が取れないことを本当に申し訳なさそうにもしているのです。でも、埋め合わせになることをしてくれたことはありません。今も、お詫びに次ぎいついつ会おうとは言いません。

「連絡するから」とは言いますが、その言葉を信じて何度悲しい思いをしたかわからないので、信じないようにしています。私はもう笑って「大丈夫」と言う気にもならなくて、目も合わせず「それじゃあ」とその場を去りました。彼と会っていた時間は時間にすると1時間未満でしたが、とても長く感じられました。

これ、もうダメだ。会うんじゃなかった。私のやっていることは時間のムダだった。

あの人はいつも忙しくて私にまとまった時間なんてとれないし、とれたところでもっと大事なものがある。それをとっくにわかっていたのに、なぜ会いに行ったんだろう。外はあまり寒くはなく、私は大学を出て、そのまままっすぐ大通り側へ進みます。身体を動かして気を紛らわせたかったのです。どこかで座ったら、その場で泣き出してしまいそうだったのです。

チカにLINEでもして「もう絶対会わない」って宣言しようかな。そしたら多少はスッキリするかな。赤れんがテラスを過ぎたころ、そう思いましたが、エレクトーンの演奏家と講師を兼ねる彼女は、今日もどこかで演奏会のはずです。じゃあ、ミチルちゃんにこの前借りたラグビー漫画の感想でも送ろうか。パルコが見えてきたころ、そう思いました。しかし、彼女は今日つどーむかどこかの同人誌即売会イベントに出ているはず。ふたりがダメそうだと、3人目の見当をつけるのもむなしくなってきて、私は自分のヒマさ加減と「何もなさ」に泣きたくなってきました。

私にもチカのように休日も熱心に励める仕事があったり、ミチルちゃんのように夢中になれる趣味があれば。自分に自信が持てて、もっともっと早い段階でヒロアキ君を見限ることができたのかもしれません。できなかったのは、ようやく手に入れた「一緒に出掛けてくれる男の子」を手放したくなかったからです。

早く家に帰ればいいのに歩き続けて、とうとうすすきのまで来てしまいました。非常識な距離と思われがちですが、大学時代、地下鉄代がもったいなくてよく歩くようにしていたら、いつの間にかこのくらいの距離は平気で歩けるようになっていたのです。やがて中島公園が見えるほどのところまできて、近くの川の前で、私はようやく立ち止まりました。昔から落ち込むと、私はこのすすきのの濁った川にいる鯉を見にきていました。決して住環境が良いとはいえないこの場所で、鯉はそれでも暮らしている。それを見ていると勇気が湧いて、自分も頑張ろうって思えるんです。

中島公演側

川の手すりに両腕を載せ、イヤフォンをして、私はぼんやりとスマホを見ます。すると例の推しメンが人気漫画原作の映画に出るというニュースを発見しました。一気にテンションが上がり、「ヤバイ、絶対観に行くし」と声に出してしまいそうになります。さっきまで落ち込んでいたのに、我ながら単純だと呆れつつ公開日を確認すると、秋でした。秋。私はこの映画が公開される頃、一緒に観に行ってくれる男性を見つけられているんでしょうか。見つけられない気がします。もしかしたら、どんなに努力を重ねたところでずっとひとりぼっちかも。自分なりに必死なのに、気が付くといつも一人。

恋が無理ならせめて友達みたいに自立したいのに、それもできない。

私本当に、どうしたらいいんだろう…うつむいて音楽のボリュームを上げると、ぽん、と不意に肩をたたかれました。大きな音で聴いていたから、呼ばれていることに全く気が付かなかったのだと思います。「アスナちゃん!」不意に呼ばれて出た言葉は、またも、「はい!」。そこに居たのは、なんとマサトさんでした。

「あの、今日って、ライヴ観に行ってるんじゃないんですか?」

驚いて、ようやく出たのがこの質問。少しは嬉しそうにすればいいのに、それすらできません。

「そうだよ。あそこのDUCE。郵便局の近くの」

言いながら彼がさすのは、川の反対側の建物。すすきのには小規模のライヴハウスが多く存在し「そんなところに?」といった場所にもあるとオタ友のスズキさんが言っていましたが、まさかこの川のそばにもあったとは。意外な展開に私はぽかんとしてしまいました。

「何してんの? 寒くない?」

マサトさんは、この前と同じように気遣ってくれます。嬉しい反面、でも『片想い相手とやっと会えたと思ったら、ろくに相手にされず泣く泣く帰ってきました。おめおめ帰るのも悲しすぎるので、ウォーキングを兼ねて適当に散歩していました』と、正直に話すのは格好悪すぎると思いました。ていうか、好きな人がいるってこと自体マサトさんには知られたくないし。

考えたあげく出てきた答えは「暇で…」という、これまた最悪なものでした。暇な子なんて魅力的じゃない、物欲しそうにフラフラしているから舐められるのだとわかっているのに、なぜこう答えてしまったのか。さらには…

「暇、なんです。なんか、見つからなくって。趣味とか仕事とか、夢中になれるもの探して知り合い増やしたり、色々経験して探してはいるんですけど、これってものがずっと決まらないんですよ。だから今日も一人で…」

ここまで喋ってしまった。これじゃ男の人に相手にされないのよりもっとかわいそうだし、愚痴っぽくなっちゃっているし。せっかく会えたのに、こんなの、脈絡のないオタク話よりダメだわ。マサトさん、絶対ひいてる。私はそう思い、がっくりと肩を落とします。

「んー…」

困ったような彼が、次に何を言うのかももう聞きたくなくて、今すぐ川に飛び込みたいとさえ思いました。

 

(眞宮悠里)


気になるお相手がまさかの登場…冬の川に飛び込みたいほど動揺しているアスナはこの後どうする!?

 

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