すすきの恋愛カウンセラーvol.2:27歳。結婚に焦る彼女と噛合わない男の気持ち

札幌 大通り公園
前回のあらすじ

 

Y課長に誘われ、すすきののニュークラブへ行ったマサヒロ。相変わらずの酔い振りを見せるY課長を精一杯ヨイショする。ところが。「心ここにあらずって感じね」。いままで誰にも気付かれたことのないマサヒロの気持ちを一発で見抜いたニュークラ嬢、フミカ。それに驚かされたマサヒロはつい、色々な身の上話をしてしまう。彼女のユキのことさえも…。説得力のあるアドバイスをするフミカ、そしてすすきのにハマってしまいそうな予感を抱くマサヒロであった。

 

しばらくぶりに自分だけの時間を過ごしたかったんです

大通り公園でスケートをする子供 たまの休日。僕は大通公園にいました。休みの日って、時間が空いたら必ずユキに連絡してたんですけど、今日は絶対「自分のために時間を使おう」って決めたんです。フミカがアドバイスしてくれたのが、なんか心に残っちゃって。 ユキとの関係を悪くしないために連絡を取らなきゃ。 今までの僕って、そんな感じだったんです。変ですよね、仕事ではあんなにポジティブに色々取り組めるのに、ユキのことになるとなんか妙に引っ込み思案っていうか。

 

グイグイ来られると逆に引いちゃう、みたいな感じがあって。 最初はいつも睡眠時間が足りてない分、気の済むまで寝てやろうって家の中でゴロゴロしてたんですけど、なんかユキのことばかりが頭に浮かんできてしまって。それで、カメラを持ってここまで来ていました。大学のときはよく趣味でカメラを持って旅行していたんです。思い出になっていく、その一瞬を切り取る感覚がたまらないと言うか…。

 

まあ、新聞記者になったら、それも仕事の一部になっちゃったんですけどね(笑)。 寒空の下でカメラを構えて、なんでもない日常風景の一部をパチリ。子どもたちの笑顔や見守る大人、ビルの隙間をせわしなく縫って行くスーツ姿の人たち。いつも何気なく見ているはずの世界が、全然違って見えるんです。まるでキャンバスみたいに。

 

不思議なもんですよね。 そういえば、趣味でカメラを構えるのなんて、もう何年ぶりだっただろう。ファインダーを覗き込みながらふと思いました。3年くらい? いやいや、そんなはずは。でも、そうかもしれません。大学の卒業記念ってことで、ユキとふたりでヨーロッパに旅行に行ったこともあって、それが本当に最後だったんじゃないかって気がします。だとしたら、もう5年近く…。いつの間にか、そんなに時間が経っていました。

 

なんだか、突然撮る気が無くなっちゃった。

 

自分の握っているカメラをじっと見つめて、それから自然と白いため息が出ました。このカメラが撮っていたのは、まだ僕がユキとの関係に少しの疑問も抱いていなかった幸せな時間だったんだ。そう思うと、急に胸が締め付けられるような思いがして。自分のためだけの時間を作ろうと考えても、結局僕はユキのことを考えずにはいられなかったのです。

 

 

僕は喫茶店に駆け込みました。冷えた心と身体を温めて、今日はもう帰ろう。そしてザバンと湯船にでもつかって、さっさと寝るのがいい。そう思い始めていました。ローストされた豆のにおいが、僕を優しく迎え入れてくれます。カウンターの一角に腰を下ろして、「カフェラテ1つ」と声を投げました。その直後、携帯電話に着信がありました。

僕が想っているときは、相手も想っているってことでしょうか?

カフェラテ 着信はなんとユキからでした。

 

偶然なのか、それともそれが恋人ってヤツなのか(笑)。電話に出ると、ユキは「今日ってヒマ?」と聞いてきました。僕が「大丈夫」って答えると、「待ってるからね」って、それだけ言って切られました。これが普段通りのやり取りなんですけど、こっちがそうして欲しいってときに来ると、結構嬉しいもんですね。いつもは、面倒くさいなぁ、なんて思ってしまうのですが…。

 

頼んでいたカフェラテが来て、カップを傾けます。華やかな香り。温かい苦味。美味しい一杯でした。心が満たされたら、今度はユキの家へと向かいます。途中花屋で小さな花束を買いました。特に理由はないですけど、そういう小さなサプライズもしてみたくなったんです(笑)。赤、黄色、白…花には詳しくないですけど、そんな僕でもキレイだなって思う仕上がりです。

 

彼女の家について早々、僕は彼女にそれをプレゼント。思っていたよりもずっと喜んでくれて、早速彼女が花瓶に花束を飾りはじめました。

 

珍しいよね、マサヒロがお花を買ってくれるなんて

 

そうです。珍しいです。でも、それは何も花束だけのことじゃない。こんなにユキの家に来ることでドキドキしてしまうのは、とてもしばらくぶりだったからです。でも、それを言ったら色々と突っ込まれそうなので、僕は「そうだね」って言って笑っておきました。

 

それから、彼女の職場の話をあれこれ聞かされます。どこの職場でもそうなのでしょうけど、自分とウマの合わない人がいるみたいです。ユキって男勝りなところがあって、すごくガンコなことがあるから、自分が折れて、一歩引くということはあんまりないんだろうな…。昔それをさりげなく伝えようって思ってアドバイスしたこともあったんですけど、その時もムスッとしてたんで、今日は聞き手に徹します(笑)。 彼女は一通りグチを吐き終えると、今度は僕の顔をじっと覗き込みました。

 

ねえ、マサヒロ。わたしの実家、いつ行こうか?

 

出ました、結婚の話です。それは、5年も付き合っていれば結婚は意識しても当然です。でも、僕にはまだそんな覚悟が出来てない。職場の上司や先に結婚した同僚の顔を思い出して、一気に熱が冷めていくのを感じました。「いいんじゃないの、まだ行かないほうが。」と僕が言うと、ユキは明らかに不満そうにしました。こういう分かりやすい所は好きなんですけどね(笑)。

 

いつもそうやって言って逃げるよね、マサヒロは…

 

これには、カチンと来ました。逃げる?1度しかない人生をどうよくするか。これはお互いにとって大事なことだと思います。色んなことを考えて、慎重に決めたいと思うのは当然のことです。結婚なんて一生で1回(人によっては2回、3回ってこともあるけど…)のイベントです。もちろん、絶対間違いのない選択なんてないことくらい分かっています。ユキのことを真剣に考えているからこそ、タイミングだって重要です。それなのに、逃げるだと…。

 

僕は立ち上がって、「もう今日は帰るから」とだけ言いました。ユキが小さく「えっ?」と漏らした声が聞こえました。いつもだったらここで「ごめんね」なんて僕が言うから、たぶんそれを待っていたんだと思います。でも、今日の僕はちょっと違った。僕の頭の片隅にはフミカの言葉があったからでしょう。

 

彼女の家を出ると、外はまた雪がちらつき始めていました。もう一回大通に写真を撮りに行くのは、なんだか惨めな気がして、僕はそのまま自宅へと向かうことに。結局、自分だけの時間なんて全然持てませんでした。冬の札幌の日は短いですから、まだ4時にもなっていないというのに、うっすら暗くなり始めています。もう家に帰ってお風呂に入って、寝るだけにしよう。

 

帰り道、また携帯が鳴りました。どうせユキだろうと思って見てみると、大学時代の後輩からのメール。卒業以来ほとんど会っていないのに、突然連絡をくれるなんて、どうしたんだろう。僕は驚いて中身を確認します。 携帯を確認するマサヒロ 「マサヒロさん、お久しぶりです! 突然で申し訳ないんですけど、今度の土曜の夜、すすきので合コンやるんですよ。 1次会だけの参加でもいいんで、ぜひ来てもらえないですか? よろしくお願いします!」

このタイミングで合コンの誘い。僕は携帯をポケットの中に突っ込みました。返信は帰ってからにしよう…。

 

(ノルベサにて編集)


良いのか悪いのか。このタイミングで合コンの誘い。2人のこれからはどうなるのか!?

 

【関連投稿】

すすきの恋愛カウンセラーvol.1:仕事に恋に全力疾走、27歳大手新聞記者の新たな出会い。

すすきの恋愛カウンセラー:Vol.3 人数合わせの合コン。あり勝ちな大義名分の行方

すすきの恋愛カウンセラーvol.4:浪費という現実逃避を明日への活力に…

【関連連載】

オタク女子のすすきの恋活記VOL.1:仕事も恋もちょっとイマイチ。25歳オタク女子の悩み

オタク女子のすすきの恋活記VOL.2:新たな恋の予感…まさかの“恋活バー”デビュー!

オタク女子のすすきの恋活期VOL.3:気になる人と昔からの片想い相手。今一緒にいたいのは?

オタク女子のすすきの恋活期VOL.4:ついに決断。本当にやりたいことは?