すすきの恋愛カウンセラー:Vol.3 人数合わせの合コン。あり勝ちな大義名分の行方

すすきの恋愛カウンセラー
前回までのあらすじ

大手新聞社の記者として働くマサヒロ。上司につれていかれたニュークラブに密かな楽しみを覚え始める。休日、彼は趣味のカメラを片手に大通公園に出かけるが、そのカメラは学生時代から付き合ってきたユキとの思い出をたくさん集めていたものだったことを思い出す。突然の彼女からの呼び出しがあり、ユキの家に向かうが、結婚に対する考え方の違いから口論となりマサヒロは彼女の家を出る。帰路の途中、大学時代の後輩から合コンの誘いが来てしまった。果たしてマサヒロはどうするのか。

 

合コンくらいは参加しても罰は当たらないと思います。久しぶりに会う後輩の誘いですし…

 

合コンの当日の午後、メールをくれた後輩と僕は事前に軽くお茶をしていました。彼の名はカズキ。大学時代にはそれなりに多くの後輩もいましたが、すっかり疎遠になっていました。会おうと思えばいつでもあえるはずなのですが、卒業と同時に会う機会が激減していました。カズキとも卒業後は何度か飲みに行った程度で、会うのはもう3年ぶりくらいです。大学時代は同期以上に親しい間柄で頻繁に宅飲みなどをしていましたし、ユキとも面識があります。
ユキは少しお堅いところがあるので、合コンや夜のお店に僕が出入りすることを極度に嫌がります。ただし、仮に今回の事がバレたとしても『カズキとその友達と一緒に飲んでいただけ』という事実があれば、それほどの痛手にはなりません。ユキも大学時代はとてもカズキを可愛がっていたからです。つまり、誰も傷つかないということです。

後輩と歩く大通り
-どうせカズキのことだから、半沢直樹とかに憧れて銀行マンになったんだろ!?
僕がそう尋ねると、カズキは「やっぱ、バレちゃいました?」といって笑っていました。弟キャラのカズキは、性別や年齢を問わず人脈が広いという印象があります。そんなカズキが大学卒業後は銀行マンとして活躍していたようです。ミーハーな彼は流行のドラマやタレントに影響されやすかった記憶があります。大学時代に彼は、法学部に在籍していましたが「HEROのキムタクを見てカッコ良かったから法学部を選んだ」と語っていました。カラオケでは最新のオリコンチャートに入っているような曲しか歌わない。とにかく、ミーハーで楽しい奴です。
聞こうと思ってたんですけど、マサヒロさんってユキさんとまだ付き合っているんですか?
正直、一番聞かれたくは無かったことを聞かれてしまいました。ただし、僕との付き合いが長いカズキはその場の空気を読み謝りはじめました。カズキはとてもできる奴です。先輩に可愛がられるのは彼がさりげない気配りができるからなのでしょう。カズキは若干重たくなった空気を換えようと必死です。
で、でも今日は良かったです。イケメンの新聞記者が来るって言ったら、それだけで女の子のモチベが全然違いますから!
彼の意図はわかっていますが、これには僕も微笑んでしまいます。「カズキは相変わらずだ…」そう感じると、どこか懐かしくて妙な安心感があります。今日の飲み会は楽しいものになりそう。期待感が膨らんできました。それにしても、合コンなんて何年ぶりだろう。ユキと付き合いだしてからはずっと断ってきました。合コン会場に向かう前まで僕は女性とお酒を飲むことよりも久しぶりにカズキと飲めることが嬉しかったというのは本音です。

今となってはもう、説得力もない言葉なのかもしれませんが…

 

予想外に良い雰囲気!?気がつけば僕も本気モードの合コン

グールズー
僕がカズキに連れられてお店に入ると、既に全員揃っていました。窓からは、すすきのの景色が一望できてカジュアルな雰囲気での飲めるお店です。合コンと聞くと僕は勝手に個室を思い浮かべていましたが、カズキに言わせれば初対面の女性はオープンな場所の方が安心できて良いとのことです。彼が言うと妙に説得力があります。
僕は軽く会釈をして、全員の顔を見ました。全く期待をしていなかったのですが、思わず僕は心の中で「社会人になってもやっぱりカズキはできる子だ…」とつぶやいていました。僕とカズキの他に2名の男性がいましたが、2人ともカズキの大学時代のサークル仲間のようです。ルックスは普通なのですが、実は弁護士と会計士だという2人。そんなのと比べられると完全に僕の負けだと思っていましたし、何の期待もせずにカズキとの飲みを楽しもうと心がけていました。そう、飲みはじめた段階までは…
新聞記者さんって、お仕事大変そうですよね。やっぱり毎日忙しいですか?
向かいに座ったナツミという女性が僕に聞いてくれました。現在、札幌市内の大学に通う女性です。癒し系のナツミ正確のキツいユキとは対照的で話していると新鮮な感覚を覚えます。少なからず、僕に興味を頂いてくれているようでしたし、僕も彼女との会話に夢中になりました。まだ、学生の彼女は自分の将来を相談できる先輩が身近に居ないということで、僕の仕事や生活、休日の過ごし方などに興味を抱いてくれたようです。
やっぱり、社会人になったら出会いとか少なくなるってみんな言いますよね?マサヒロさんはどうですか?
こう聞かれてしまうと、一瞬頭の中にユキのことが思い浮かんでしまいましたが、僕は適当に濁してしまいました。いつもの僕なら、こんな時、ユキの存在を明確にしていたはずなのですが…
そ、それは人によるよね。どんな環境でも常に彼女がいる奴はいるじゃん…!
彼女がいるのかという事を直接聞かれたわけではないし、別に嘘はついていません。しかしながら、僕は冷静さを失いつつありました。別のテーブルを見渡すと、グループトークのような光景は一切ありません。合コン経験の少ない僕は、少々戸惑いながらもナツミとの会話がどんどん楽しくなってきてしまいました。ナツミは知的な男性が好みと言った側から、「マサヒロさんは頭が良さそうですよね…」そんな風に言いながらこちらを見ています。その姿を見ると、どんどん邪な自分が出てきてしまったようです。
-今日は気分が乗ってきた、カズキ、お前は最高の後輩だな!?
楽しくなってきた僕は、彼にそう伝えようかと思って覗き込んだところ、相手の女性とLINEのふるふるをやっているようです。「さすがカズキ…抜かりのない男だ。」そう思っていた矢先に僕の携帯がなりました。画面を確認すると、ユキからLINEのメッセージがきているようです。前回会ったときに少し後味の良くない感じだったので気になった僕はちょっとだけ席を抜け出すことにしました。
LINEのやりとり この前はゴメン!ちょっと反省しています。今から会えないかな?

ユキが送ってきたのはとてもシンプルな文面でした。彼女は電話や対面では謝ることが苦手です。僕は少し考えて、「今日は久しぶりにカズキと会ってるから、ごめんね」とだけ返信しました。ユキに呼び出されて合コンを抜け出してしまっては、カズキの顔が丸つぶれです。僕もそんなことはしたくありません。一瞬、酔いが冷めてしまいそうな気がしましたが、カズキと合コンという“現実逃避”に近いような時間をもう少し楽しみたい。まぁ、良いじゃないですか。別に浮気しているわけでもないですから。
僕がテーブルを離れていた間に席替えが行われたようで、戻ると末席が空いていました。ナツミの隣です。気を利かせたカズキがそうしてくれたのでしょうか? 僕はまたナツミと話し始めました。ナツミは話し方が柔らかく、気が強いユキとは全く違うタイプです。比べるのもおかしな気がしますが…
マサヒロさんってお酒強いですか…?じゃあ、たくさん飲ませちゃいますよ!
ナツミは僕の顔を覗き込むように見つめてそう言いました。僕はあまり酒が強くはありません。付き合いで飲む程度ですし、学生時代も激しい飲み会などはずっと避けて来ました。少しでも好かれたかったからでしょうか。「まあ、そこそこ強いかな…」僕はとっさにそう答えてしまいました。自称、酒豪のナツミは僕よりも明らかに酒が強いようで、彼女のペースに合わせてお酒を飲んでいると、ありえないほどの量のワインを飲んでしまいました。
マサヒロさん、面倒だからワインはボトルでたのみませんか?

ワインボトル 2本、3本と早いペースでボトルワインが消費されているのに気がついたカズキは、「先輩、大丈夫っすか…ちょっとペース早過ぎじゃないですか??」などと声をかけてくれていた記憶があります。でも、僕はナツミのペースに合わせてボトルワインを飲み続けました。飲み放題の時間が終了する頃、意識が朦朧としはじめていて、隣のナツミも目がトロンとしていました。
僕とナツミは完全なる酔っ払いです。時刻は、まだ22時。本来ならば、これから盛り上がってくるというタイミングのはずです。カズキは泥酔している僕らを置いて他のメンバーとそのまま2次会に行くようでした。彼にとっては僕に出したキラーパスのつもりだったのでしょうか。
マサヒロさん、まだ飲み足りないでしょ…?私、まだまだ行けますよ…!
「この女、まだ飲む気なのかよ…!?」、心の中でそう思いました。僕は立ち上がるのも面倒なほどに酔っていました。お手洗いを済ませて、なんとか席に戻ったところ、既に新しいボトルワインがあり、僕のグラスにはワインがたっぷりと注がれていました。少し驚いている僕を見てナツミは満面の笑みを浮かべているようです。
-まぁ良いか…明日は休みだし二日酔いくらいはなんてことはない。
僕はそんなことを考えていました。心なしかナツミは少し笑い上戸になっています。恐らく、僕もそれに近い状態だったのでしょう。僕は27歳の会社員。人並み以上に常識をわきまえているはずです。お酒の飲み方を知らない大学生のペースに完全に巻き込まれて飲み続けました。
…そう、記憶がなくなってしまうまで…。

 

狙ってた訳ではありません。あまりに呆気なくて、まるで事故のような出来事です…

s_IMG_8755s 目が覚めると、それ以降の記憶がありません。胡散くさい政治家ではありませんが、『本当に全く記憶がございません』という状況です。しかも、頭がガンガンして完全に二日酔いで吐き気がします。ここはどこで、僕はどうやって来たのか…。気がつくと僕は大きなベッドの上で、知らない女性と一緒にいました。
-隣で寝てるのは昨日出会ったばかりのナツミ。ちょっと待って、何がどうなっている…
キングサイズのベッド、天上の鏡…僕は女子大生を良からぬ場所へ連れ込んでしまったようです。一瞬で酔いが醒めてしまうようでした。慌てふためいている僕のすぐ隣では、ナツミがスヤスヤと眠りについていましたが、その眠り顔を見ていると僕の焦燥感はどんどん高まって来ました。この状況をユキに見られたらどうしよう…これは誰がどう見ても完全なる「浮気」です。
すごい勢いで飲んでましたね!?ナツミちゃんとどこに行ったんですかねww 僕らはあの後、カラオケに行って適当に解散しました。また、今度飲みましょうね!
カズキからLINEメッセージが来ていました。ついさっきまでは最も身近な後輩だったカズキが野次飛ばしの外野のように思えてきました。共通の知り合いなんて沢山いますし、ユキの友達とも結構な繋がりがあります。彼を経由してユキの耳に入る可能性は充分にあります。そう考えると居ても立ってもいられないほどに、僕の焦りは高まっていきました。
とにかく帰ろう。ここがどこだかよくわかりませんが、すすきのでしょう。時計は7時を少し回ったところ。どうやっても帰れます。それ以上に、シラフの状態でナツミの目を見て話せる自信がありませんでした。僕は彼女を起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、財布から2万円を抜いてサイドテーブルの上へ。少し多いかとは思いましたが、罪悪感を押しつぶすためなのか、ためらいはありません。そしてメモ書きを一緒に残しました。
昨日は楽しかったよ、ありがとう! 用事があるから先に帰るね。ホテルの代金と残りはタクシー代にでも使って。 マサヒロ s_52e5da4a94f7e0a7763491eea7de1337_s とにくかく僕は、この焦りと罪悪感から早く抜け出したかった。ユキに対してもそうですが、軽るいノリで関係を持ってしまったナツミに対する罪悪感。浮気をする男なんて世の中に五万といます。浮気をしないことが僕のポリシー…昨日まではそんな風に堂々と語ることができました。僕という人間が今まで大切にしてきた何かが崩壊していくような感覚です。自分って意外と気が小さいんだな…そう気づかされたような気がします。
カズキにも、ユキにも、ナツミにもちゃんと話したいけど、いまはそれができない。誰を傷つけることもしたくはない…。ホテルを出て自宅に向かう途中、今後、どうやって彼女らと接すれば良いものなのか迷っていました。誰かに相談したいけどなぁ…僕の頭の中に、あの人の顔が浮かんで来ました。そうです、すすきののニュークラ嬢、フミカです。彼女なら自己嫌悪の塊になっている僕をどうにかしてくれるような気がしていました。

 

(ノルベサにて編集)


自己嫌悪に陥ったマサヒロ。この後彼がとった行動とは!?
すすきの恋愛カウンセラーがいよいよ最終回!

 

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