すすきのビギナーの恋vol.1:30歳、初めてのすすきの暮らし




渋谷スクランブル交差点

東京生まれ東京育ちって羨ましいなってよく言われたけど、自分では思わなかった。むしろ僕は、違う場所に憧れた。それが札幌だった…

東京生まれ東京育ちの純は、30歳で都内の中堅のアプリゲーム制作会社を辞めて札幌に移り住んだ。北海道出身の知人が札幌を拠点として立ち上げることとなったベンチャーのアプリゲーム制作会社に就職するためだった。札幌は高校の修学旅行などで訪れて気に入り、東京を出るなら住んでみたいと思っていた場所だった。しかしこれまで東京にずっと住んでいた純は、自分がいかに社交的な友人関係などに恵まれていたかを札幌に来て思い知った。そして受け身で人任せ気味だった純の、ゼロからの新たな暮らしが始まるのだった。

どうして地元でもないのに、今さら進んで北海道へ?

 

札幌の会社で働くことが決まった時、東京の多くの友人にそう言われた。一緒にその会社で働く友人で社長の喜多村すら、似た疑問を口にした。どうして東京を出て、札幌に住んで働く気になったのか。   僕に言わせれば、むしろ望んでいたことだった。ようやく憧れの札幌に住む機会が来たと思った。だから飛びついたんだ!そうして札幌で住む準備のため、本格的な引越しの前に札幌に行って喜多村に案内してもらう機会があった。そして来た場所が、すすきのだった。

すすきのへの引越し

「どうだ、すすきのは?」

すすきのを一通り見て周ると、喜多村に聞かれた。何か自慢げにも見える。北海道出身の喜多村にとっては、ここは誇らしげな場所なんだろうな。俺は「ここも気に入ったよ」、と素直に答えた。でもさすがに、「会社もすすきのの中だから」と聞いた時には「え、ここ?!」と驚いた。もう少し静かな場所にあるのをイメージしていたからだ。

「ここは立地も便利だし、地元の飲食店や企業とのコラボにも便利だろ?」

喜多村はそう言って、「僕が住む部屋もすすきのの近くで借りればいい」と提案してきた。どうなんだろと迷ったが、嫌だとは思わなかった。都会育ちの僕にとっては、すすきのは何だか安心できる場所でもあったからだ。…よし、決めた!すすきので暮らそう。僕はそう決め、すすきのを拠点に暮らす準備を進めていった。

東京よりも札幌が好きなんです…

すすきのの近くの部屋に引っ越して、本格的に暮らし始めた。一週間後には仕事も本格的にスタートする。東京都八王子生まれで、社会人として中堅のアプリゲーム制作会社に就職してから中野に住んでいた僕にとって、初めて東京以外での暮らしだった。それを他の人がどう思うかはわからない。でも僕は、とてもワクワクしていた。   生まれ育って、地方の人からはよく憧れられる東京。そこよりも札幌が好きになった理由、それは何だろ?自分でも考えることがあるが、思い付くのは気候だったり雰囲気だったり人だったり、色々だ。

でも理由よりも、好きになった気持ちが大事だと思う!人を好きになるのだって、理由なんていらないじゃないか。   そしてそんな札幌での暮らしの拠点にすすきのを選んだのも、やっぱ悪くなかったなって思う。独身で外食も多い自分が食事するのにも困らないし、生活必需品とかを買うのには札幌の中心街の大通りとかに出ればいい。修学旅行とかで行って気に入った観光スポットにも、すぐ行くことができた。

そして夜だ!夜行性の僕にとって、夜に街の明かりと人の気配がすることは安心にも繋がった。不安を感じなくてすんだ。いいじゃん、すすきの。僕はそう思えていた。

北海道の鮨を、初めて食べる!

1人で夜のすすきのを歩いていると、よく声をかけられた。「良い子いるよ」、みたいに。ニュークラブ…東京でいうキャバクラとかの店への誘いだった。僕がまだすすきのを慣れておらず、キョロキョロと歩いていたのも声をかけやすかったかもしれない。でも僕は一度も誘いには乗らなかった。東京にいた時でも数える程しか行っておらず、そんなに好きではなかったからだ。 それよりも北海道の食が好きで興味津々でもあった僕は、普通の飲食店の方が興味があった。自分でネットで調べて気になった店に行ったり、歩いていて興味を惹かれる外観の店に入ったりもして、今のところどれも美味しくて満足だった。

北海道の寿司

さすが北海道! そして今日は1人じゃなく、喜多村にお薦めの店を案内してもらうことになっていた。待ち合わせ場所のススキノラフィラの前で、喜多村と合流する。すすきのの待ち合わせの定番スポットの1つだと喜多村は言っていた。確かに便利な場所にあり、わかりやすい!早く着いてしまっていたけど、中で時間を潰すこともできたし。 「寿司なら北海道が一番だ!」 喜多村はそう言って、駅から300メートルくらいの近場にある鮨の店へ連れてってくれた。

そこは有名店で、ネットで調べた時もすぐ上位に出てきた店だった。もちろん回る鮨なんかじゃない。そして行きたかったけど、1人で行く勇気は出なかった店だった。そして食べたら……うまっ!感動して、声も出てしまった。

「だろ?たくさん食え!今日はお前のすすきの暮らしの祝いでもあるし、経費で落としたるよ!」

そう言われ、遠慮せずどんどん注文してどんどん食べた。鮨は元々好きでも嫌いでもないくらいの食べ物だったが、こりゃ評価急上昇だ。一気に好物の1つにランクインさせた。美味すぎて調子に乗って、少し食い過ぎた気もする。喜多村は最後、会計を見た時に一瞬顔がこわばったようにも見えた。ちょっと申し訳なかったかな(笑)

札幌の女性と付き合う。そんな事も長年思い描いていた…

鮨の後に居酒屋に行って、酒を飲みつつ話した。喜多村は酔ってくると、「ニュークラブ行くか?」みたいに提案してきたけど、それは断った。そういうのは苦手だと。

「何だもったいない。東京出身でここらで暮らし始めたばっかだって言えば、まずモテるのによ…」

…何だと?その言葉は聞き逃せず、つい食いついてしまった。そしたら当たり前だみたいに返され、それは夜の女の人だけじゃなく一般の女の人でもそうだと喜多村は主張した。大半の札幌の人は東京に憧れがあり、東京出身で札幌に住む人は珍しいからだと。…嘘、そうなのか?期待していいのかな?   事実じゃなく喜多村の主観なのかもしれないが、僕の期待は膨れ上がっていた。そこから恋バナになり、彼女がいないから札幌で彼女が欲しいと素直に打ち明けた。でもモテるとしても札幌の女の子の知り合いはいないし、出会う機会も無さそう。そんなことまで、赤裸々に(笑)

「よし任せろ!俺が紹介か、合コンでもしてやるからよ!」

喜多村は自信あり気にそう言ったが、すぐには信じなかった。東京にいた時も似たようなことを言い、結局は何もしてくれなかった過去があるからだ…。でもその時より関係は深まったし、こっちには僕が本当に知り合いもツテも無いことは知っているし、もしかしたら…何て淡い期待も抱いてしまった(笑)だけど本当に見つけたいなら、そこに頼るだけじゃなく自分からも行動しなきゃな…

(中津 功介)


すすきのでの新しい暮らしに期待を抱きはじめた純。果たしてどんな現実が待ち受けているのだろうか?

第2話はこちら



 

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