すすきのビギナーの恋vol.2:観光気分から一転。待っていたのは孤独な日々!?

すすきのビギナーの恋

前回のあらすじ

 

30歳で初めてのすすきの暮らしを始めた純。元々すすきのがある札幌が好きで憧れていた純にとってその暮らしはワクワクするもので、北海道の美味しい食事も楽しんでいた。でも友人の喜多村と恋バナになったことで、彼女がいない現状と札幌の女性と付き合いたいという願望が頭を支配するようになってしまう。でもそういうツテや人脈が、札幌にはほとんど無い。唯一の頼りといって言い喜多村もあんまり頼りになりそうにない。不安になりながらも、純はどうにか頑張っていこうと決意するのだった。

 

仕事が始まると忙しくて、日々はあっという間に…

 

転職したアプリ制作会社での仕事も、とうとう始まった。すすきので暮らし始めての一週間は自由な時間が多かったので、時間の流れもゆっくりだった気がする。でも仕事が始まると忙しくなり、進むのが早くてあっという間。特に最初は新しい職場に慣れるのに大変だったりで、仕事が終わると帰ってすぐにグッタリで熟睡。すぐに1週間が過ぎていった。

 

「よし、今日はこれで終わり!」

仕事が始まって最初の金曜日、喜多村がそう言ってくれた。時間はまだ19時前だ。始まるのが少し遅めとはいえ、それまでは21時は絶対に過ぎていたので、かなり早く感じる。これはきっと…と僕は期待した。この後に飲みに行こう!と言い出してくれるんじゃないかなと。理想は女も呼んでるから!や合コンするぞ!みたいな展開だが、そうじゃなくて2人でもいい。飲んで食べて、この一週間の疲れを癒したい!…でも、その期待は裏切られた。

「地元のダチとの飲みがあるから、行くわ!」

そう言って、喜多村はさっさと行ってしまった。そういえばアイツの地元は北海道の、しかも札幌の近くの出身なわけで、地元の友人というのが近くにいるのだろう。良いなぁ…そう思いつつ、諦めて会社を出た。真っ直ぐに帰るのは嫌で未練たらしくすすきのの街をウロウロした。でもその時は1人ではどこにも入る気になれず、何回も声をかけられるニュークラブなどへのキャッチもうざったくなった。だから持ち帰りの食事を買って家に帰り、食べて風呂に入ってすぐ寝た。やっぱり疲れていたのか、すぐに熟睡だった。

 

あれ、折角のすすきのが楽しめなくなってるぞ…

仕事が始まってから最初の週末は、ほぼ寝たりダラダラしたりで過ごしてしまった。疲れているからその疲れを取りたいというのももちろんあったが、それよりも1人だと出かける気にならないな、という方が大きい。

最初の1週間はある意味旅行気分だったから楽しめたが、よく考えたら僕はあまり1人で行動する人間じゃなかった!思えば東京にいる時は地元だったり人間関係に恵まれていたりで、いつも誰かに誘われていたり、参加できるイベントがあったりだった。でも…今は違う。

僕は恵まれていたんだ!すすきのに来たことで、そう思った。

アプリゲーム

「売りこみ手伝って!」

また仕事が始まったかと思うと、そんな事を言われた。は、嘘だろ?僕は営業職じゃないしそんな経験もないし、苦手でしたくなかった。だから拒絶したが、結局は説得された。

喜多村の会社で進めているゲーム開発のプロジェクトは、札幌の街を舞台にしたゲーム。実際の企業名や店舗の名前などをバシバシ出していくのが売りの1つだった。それでスポンサーはそれなりに集まっているが、協力してくれる店舗がまだ少ないのが問題だという。確かにそれが無いとこのゲーム制作は行き詰ってくるし、魅力も減っていく。更には会社の人手もまだ足りないということで、渋々納得した。一大決心して札幌まで来たっていうのに、転職した会社がいきなり潰れるじゃシャレにならないし。

その一週間は、結局は半分くらいゲームの魅力や概要などをアピールする企画書などを持って外回りさせられた。飛び込みで店に入ったりして、お願いしますと企画書を見せて説明。ただそれだけと言えばそれだけだが、えらく疲れた。

大手のスポンサーが付いてたりすることもあって大半はまぁまぁの反応だったが、たまに理不尽なくらい渋い反応されるのもキツかった。営業職の人、すごいわ…僕には無理。向いてないです。

そんなこんなで精神的にはかなり疲れたが、慣れもあって肉体的な疲れは先週ほどではなかった。作業量も落ち着いていたし。そしてそんな状況の時は、いつもよりも数倍飲んだり食べたりしたくなるものだ!

その欲求は金曜日には、爆発寸前にまで高まっていた。だから金曜日の仕事の終わりが近づくと、我慢できずに思わず喜多村に聞いてしまっていた。この後どうする、みたいに。

 

自分で行動しなきゃ、ダメだ!そうだ街コンでも行ってみようかな…

 

「俺は合コンに誘われてるから、じゃあな!」

あっさりと言い放ち、またも喜多村はさっさと僕を置いて行ってしまった。いや、誘えよ!と叫びそうになったが、そこはグッと堪えた。口にしてしまったら余計に虚しくなりそうだし、喜多村は無神経に「何で?」とか聞いてきそうだ。大らかで行動的であまり過去にこだわらないのは、あいつの長所で短所で、そして社長にも向いている特性だからだ。

僕はまたしても1人で会社を出て、1人ですすきのの夜の街を歩くことになった。金曜日なのに、明日は休みなのに、だ。こんなの東京にいた時は、ほとんど無かった。そしてもう東京なら春の時期なのに、ここはまだまだ寒くて、冬みたいだ。寒いのはどちらかと言えば好きだったはずなのに、寂しいと寒さに弱くなるんだなと思った。北海道の、札幌の春はいつ来るのだろう……。毎年花見とかしながら見ていた桜も恋しい…。

人恋しくて、仕方ないや。

自分がこんなに寂しがり屋だったなんて、思ってもみなかった。

我慢できなくなって、決めた。1人でバーに入ろう!普通の飲食店や居酒屋じゃなくバーにしたのは、誰かと話したかったからだ。バーなら例えお客と話せなくても、マスターとか店員は話し相手になってくれる。東京にいた時も、今ほど切羽詰まってではなかったが、フラッと何回かは利用したことがあった。

そして僕は、ゲームの協力の売りこみで一度訪れたこともあった、500種以上のモルトウィスキーと、50種以上のシガーを揃えたバーに決めた。女性バーテンダーがいるデザイナーズバーと少し迷ったが、人恋しい今の弱った自分を女性バーテンダーに見せるのは恥ずかしい気もしてしまって…。

すすきののシガーバー

街コンかぁ、行ってみようかな

 

ゴホッ、ゴホッ。

マスターから薦められたシガーを吸おうとしたら、思いっ切りむせてしまった。タバコすら酔った時にたまにしか吸わないので、あんまり慣れてないのだ。むせたノドを癒そうと、目の前にあったウィスキーを飲む。でも中々に濃いウィスキーだったので、癒されずにむしろ顔をしかめてしまった。

こういうのを優雅に楽しめるようになるとカッコいい大人って気がするが、僕には無理だったか…

「札幌には慣れました?」

マスターに話しかけられ、僕は溜まっていたものをゆっくりと、そして全部吐き出していった。さすがバーのマスターとして長年働いているだけあって聞き上手で、赤裸々な部分までどんどん話してしまう。でもしょうがない、切実なんだから。

思わずふいに、店の中にいる他の客を見てしまう。他には同じように男性1人で来ている人とカップル、男性3人で来ている人らだけだった。1人で来ている女性と知り合って仲良くなっていずれは…みたいのもちょっとは期待していたけど、やっぱ現実はこんなもんか。都合良くはいかないや

「ならこれとか、行ったらどうですか?」

そういってマスターに見せられたのは、近々札幌で開催される街コンの案内のポスターだった。へぇーこんなのあるんだ、と僕は興味津々。色んな飲食店を回れるし、知らないお店にもたくさん行けそう。でも1人じゃ参加しづらいなぁ…とボソリと、弱音が口から出てしまった。

すると、どうでしょう…

「じゃあ一緒に参加しません?」

同じく1人でお店に来ていたお客さんが、そう言って話しかけてきてくれた。

(中津 功介)


知り合いが誰も居ない土地で純を待ち受けていたのは孤独・・・そんななか見つけた札幌の街コン。果たして純の生活は変化するのか。

第3話はコチラ

 

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