オタク女子のすすきの恋活期VOL.4:ついに決断。本当にやりたいことは?

中島公演側 前回までのあらすじ

恋活バーで知り合った男性・マサトのことが気になりつつ、片想い相手のヒロアキと会ってしまったアスナ。しかしヒロアキとの関係にもう未来はないと悟り、空しい気分になる。恋愛では振り回され、打ち込める仕事や趣味もない自分に落ち込みながらなんとなく外を歩いていたアスナは、なんと偶然マサトと再会。しかし、うっかり口が滑って悩み相談をしてしまい、微妙な雰囲気になってしまう。

 

今からどうすれば、この状況を打破できるでしょうか。1回会ってちょっと仲良くなって、その後はLINEくらいでしかやりとりのない相手に、突然夢とか将来とかの重たい話をしてしまうなんて。いきなり話題が深すぎます。マサトさんは私を、面倒なやつと認識したに違いありません。

私とマサトさんの関係は早速終わってしまいそう…

まあ、いずれはこうなっていたのかもしれません。マサトさんだって、私より話の合うマイさんと話す方が楽しいだろうし。そもそも、恋人がいるのかすら確認してないし。1回ミスをすると、あとはドミノ式にダメになっていくものだと思いました。別に自分のことを好きじゃないとわかっているヒロアキ君のところにふらふら出かけて行ったから、新しく気になるマサトさんと会えても、こうして場を凍らせてしまう。ネガティヴな思考は止まらず、何か話題を変えようと必死に頭を動かしても、少しも浮かんできませんでした。

「別に、いいんじゃないのかな」沈黙を打ち切ったのはマサトさんの声でした。よくないと思うんですが…そう思いながら、私は顔を上げます。マサトさんは、うーん、と冬の空を仰ぐと、私にこう言いました。

「だって、突然『これがやりたい!』って思っても、それが本当に自分に合ってることなのかどうかって、しばらくしてみないとわからないしさ。実はもう夢が見つかっても、気づいてないこともあるし。なかなか見つからないって感じるのは、それだけ真剣に考えてる証拠だと思う。適当に次々飛びついたり、変に何かに依存するより、真面目でいいなって俺は思うよ」

その言葉を聞いて、私は嬉しくなりながらも『違う』と感じました。マサトさんが私を好意的に受け止めてくれたにもかかわらずです。なぜなら、私は長らく『ヒロアキ君に変に依存している人間』だったから。親しいといえる唯一の異性にいつまでもしがみついて、そんな自分が情けなくて嫌だから変わろうとして、マサトさんと知り合って。

だからもし今の自分にやりたいことがあるとすれば、ヒロアキ君に依存するのをやめることだと思いました。

「ありがとうございます。今の話で、ちょっとヒント見つかったかも…」私は握ったままのスマホを取り出すと、即座にヒロアキ君とのLINE会話画面を出し「今日はありがとう。忙しいと思うので、今後は邪魔しないようにするね。会いに行くことはもうないと思います。

学会発表がんばって」とだけ打ち、送り終えるなりヒロアキ君のすべての連絡先を削除しました。LINEの方には返事が来るかもしれませんが、その時ははっきり今の気持ちを伝えようと思います。というか、多分来ないし。 s_4912559b5b39b24df7d1e67efb9e3918_s 「え? 早速なんか行動したの?」必死でフリック入力をし終えた私に、マサトさんが驚いたように聞きます。「はい!」私はスマホをポケットにしまうと、初めて会った日と同じノリで大きく頷きました。今までヒロアキ君には何一つ言いたいことが言えなかったのに、ようやく自分が変われた気持ちです。それでわかりました。 私の願いは、やりがいのある仕事や夢、すてきな恋人を見つけることよりも先に、自分のことをちょっと好きになることだったのです。

「マサトさん。すいません、急に会ったのに寒い中変なこと話して。でも、マサトさんのおかげで、なんだかちょっとわかった気がします。やっぱりすぐにはうまく行かないかもしれないんですけど…まずは目の前のことから、ひとつひとつ試してみようと思います。ありがとうございました!」

大きく頭を下げると、マサトさんは「大げさ。でも、がんばって」と笑い、ぽん、と頭に触れてくれました。慣れてるんだろうなあ、こういうの。きっと、今まで何回も女の子の相談受けてきたんだろうなあ。ついそう思ってしまったけど、やっぱり嬉しかったです。   それから少しだけお話していると、マサトさんのお友達が声をかけてきました。一緒にライヴへ行く人のようです。ヒロアキ君の時と同じ、別の人がやってきて会話がおしまいになるパターンなのに、不思議と淋しい気持ちにはなりませんでした。

マサトさんが別れ際「なんかやりたいこと見つかったら教えてよ。あと今後、マイちゃんやミチルちゃんも呼んでまた飲もう!」と言ってくれたからだと思います。私は『はい』ではなく「ぜひ!」と返して、手を振って別れました。

それから1か月ほどが経ち、3月も半ばになりました。あの後ヒロアキ君からは「そう。わかった。ありがとう」とだけ返事が来ました。その態度にチカは激怒し、ミチルちゃんは「これは実は悔しいのを隠してるだけですよ。本当はそこそこ以上にアスナさんを気に入ってたはずです」と謎の推理をしていますが、私は文字通りの気持ちなんだろうなと解釈しています。もうあまり深く考える気にはならないほど、ヒロアキ君の存在は私にとって小さくなっていたからです。

かといって、この1か月で何かすごい夢や目標を見つけたわけではありません。 相変わらずたいして好きじゃない仕事をしていますし、新しくはまるアイドルとか、アニメとかも見つけていません。当然恋人もいないし。   何か変わったとすれば、自分のそういった状況を素直に受け止められるようになったことです。他人のことが気になりすぎるあまり、すぐに他人と自分を比べて落ち込んでいた私は、徐々にですが「自分は自分」と思えるようになってきています。少しずつしか変われなくても、自分なりに色々試そうと今は思っています。それはやっぱり、あの時マサトさんが励ましてくれたからだと思います。

そんな今の私がやりたいことは、推しメンの出る秋公開の映画に「今年知り合った人と行く」ことです。10月公開らしいので、あと半年くらい。10月の自分はマサトさんを誘えているのか、ふられているのか、それともまるで違う男性と仲良くなっているのか。それはまだわかりません。

ミチルちゃんは「最悪あたしが一緒に行ってあげますよ。だってあたしも今年アスナさんと知り合った人だし」と言い、恋活バーで知り合った女性のマイさんも「じゃあ、私も該当者だね」と笑ってくれます。今年知り合った友達と行く。それもいいなって思います。恋人はできなかったけど友達はできた。

初めて頑張ってみた恋活のオチは、そんなものでもいいと思います。

s_ファイル2 「ごめん。待たせた?」そうです。今日は、先月約束した『マイさんやミチルちゃんも呼んでまたマサトさんと飲む』日なのです。私たちオタク女性3名は今日も昼から集まって漫画やバンドの話をしながら、それぞれマサトさん、あるいは彼が連れて来てくれる友達に期待しながら、以前チカと会ったすすきのにある赤が基調のお店で彼らを待っていました。

「いえいえ、私たちはだいぶ先に集まってたので! 今日はよろしくお願いします!」慌てて手を振りながら、私は答えます。マサトさんの背後には、恋活バーにも来ていたお友達がひとりと、今日初めて会う男性がひとり。なんだか知らないうちに、私の世界はずいぶん広がったようです。きっかけは『友達の友達であるミチルちゃんに会ってみる』という些細なことでしたが、そこからマサトさんに会い、マイさんに会い、今日も新たに出会います。いつまでもよい出会いが続くとは限らないし、オタク友達以外の男性と話すのはやっぱりすごく緊張しますが、できる限り勇気を出し続けてみようと思います。

「アスナちゃん、やりたいこと見つかったってマジ?」飲み始めると、マサトさんがなぜかいきなりそんなことを聞いてきました。いったい誰から聞いたのでしょう。両サイドにいる友人、どちらも怪しく思えます。今から秋の話って、ちょっと早くない? 大丈夫かなあ…。いや、だめだ、今日は普通に距離を縮めることに集中しよう。とりあえず、ふたりだけで会うのに誘ってもおかしくない程度には。そう思いながら私は「はい。もう少ししたら、絶対マサトさんにお知らせします!」と答えました。


Fin.

(眞宮悠里)

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